
店舗やクリニックでは、来店客や患者への対応中にも営業電話がかかってきます。「代表者につないでほしい」「電気料金の見直しです」「求人の件です」「ホームページの担当者をお願いします」など用件はさまざまですが、不要な電話が繰り返されると、受付業務や本来のサービス提供を妨げる原因になります。一方で、取引先、予約希望者、行政機関、医療・設備関係者など必要な電話まで一律に遮断するわけにはいきません。この記事では、店舗・クリニックが営業電話を受けたときの切り分け方、受付担当者が残す記録、断り方、繰り返す相手への停止要請や書面通知について整理します。
目次
店舗・クリニックの営業電話はまず業務上必要な連絡と切り分ける
店舗やクリニックでは、電話番号を公開していることが一般的です。そのため、営業目的の電話だけを完全に防ぐことは容易ではありません。最初に行いたいのは、電話口で相手方を非難することではなく、「誰から」「何の目的で」「誰宛てに」電話があったのかを短時間で確認することです。
受付担当者が毎回長い説明を聞いてから判断すると、その時間自体が負担になります。最初の数十秒で用件を分類できるよう、確認事項を決めておくと対応しやすくなります。例えば、会社名、担当者名、電話の目的、既存契約に関する連絡か、新規営業か、折り返しが必要かという項目です。
| 電話の種類 | 確認する内容 | 対応の考え方 |
|---|---|---|
| 予約・患者・顧客 | 氏名、予約・利用内容 | 通常業務として対応する |
| 既存取引先 | 会社名、担当者名、契約内容 | 担当者へ取り次ぐ |
| 行政・公的機関 | 機関名、部署、担当者、用件 | 必要に応じ代表番号から確認する |
| 新規営業 | 会社名、商品・サービス、担当者 | 必要性がなければ明確に断る |
| 相手を特定できない電話 | 名乗り、用件、折返し先 | 安易に責任者へつながない |
営業担当者が既存取引先のような言い方をすることもあります。「以前お話しした件」「院長先生がご存じです」などの説明だけでは、既存の関係があるか分からない場合があります。内部の担当者に確認できないときは、相手の名称と連絡先を聞き、必要であればこちらから確認する方法が安全です。
繰り返す営業電話は受付担当者全員で同じ記録を残す
迷惑と感じる営業電話への対応では、着信拒否だけで終わらせず、最低限の記録を残すと後の判断がしやすくなります。特に複数の受付担当者がいる店舗やクリニックでは、一人だけが何度も断っていても、別の担当者が事情を知らず再び営業内容を聞いてしまうことがあります。
記録には、着信日時、表示された電話番号、相手が名乗った会社名・担当者名、営業内容、こちらが何と伝えたかを残します。「迷惑電話だった」という感想だけでなく、実際に確認できた事実を中心に書くことが重要です。
例えば、「10月14日11時20分、050から始まる番号、○○と名乗る、求人広告の案内、不要であり今後の営業連絡も不要と伝えた」という程度で構いません。電話番号の表示だけで実際の発信者を確定できるとは限らないため、「○○社からの電話」と断定するのではなく、「○○社と名乗った」と記録すると、事実と推測を分けられます。
記録を残す目的は、相手をインターネット上で非難することではありません。内部で「いつ断ったか」「同じ相手と考えられる連絡が何回あったか」「どの営業内容だったか」を確認し、必要な対応を選ぶためです。
営業電話を断るときは曖昧な表現を避ける
営業電話が不要であれば、「今は忙しいです」「担当者はいません」「また改めてください」といった表現だけで終わらせない方がよい場合があります。相手から見ると、時間や担当者を変えれば再度連絡してよいという意味に受け取られる可能性があるためです。
今後も案内が不要なのであれば、「この営業の案内は不要です」「今後の営業電話もお断りします」「営業目的のご連絡はしないでください」など、営業連絡を希望しないことを明確に伝えます。ただし、威圧的な言葉、相手を侮辱する発言、根拠のない「違法だ」「警察に逮捕させる」といった表現は避けます。
受付担当者が個別判断を迫られないよう、定型的な対応を用意することも有効です。例えば「新規の営業電話は受付では取り次いでおりません。必要な場合はこちらから確認いたします。今後の営業連絡は不要です」というように、短く終える方法です。
相手が理由を繰り返し尋ねても、詳しい経営事情や契約状況まで説明する必要はありません。「現在の契約会社はどこですか」「電気代はいくらですか」「採用人数は何人ですか」といった質問に対し、不要な営業であると判断しているのであれば、内部情報を回答せず通話を終える対応も検討できます。
停止要請や通知書を検討する場合
電話で明確に断っても同じ事業者から営業連絡が続く場合は、口頭対応だけでなく書面で連絡停止を求める方法があります。通知書には、感情的な批判を大量に書くのではなく、相手方、対象となる電話、これまでの経緯、今後希望しない連絡の範囲を具体的に整理します。
例えば、営業電話だけを停止してほしいのか、FAXや営業メールを含めた勧誘連絡全般を停止してほしいのかで文章は変わります。既存契約がある場合には、契約の履行に必要な連絡まで拒絶すると業務に支障が出ることがあるため、「新規商品・サービスの営業目的の電話を停止してほしい」など対象を特定する方法があります。
通知先についても確認が必要です。電話口で名乗った会社名だけを頼りに郵送せず、会社公式サイト等で正式商号と所在地を確認します。営業代行会社が電話していた場合、商品・サービスを提供する会社と実際の発信事業者が異なる可能性もあります。
内容証明郵便を使う方法もありますが、内容証明は郵便局が「いつ、どのような文書を差し出したか」を証明する制度であり、記載内容が真実であることや、相手が要求に従うことまで保証するものではありません。目的に応じ、通常の書面、配達状況を確認できる郵便、内容証明郵便などを選びます。
法人・事業者向け営業電話と特定商取引法の注意点
個人消費者への電話勧誘販売では、特定商取引法による規制が問題になることがあります。消費者庁の特定商取引法ガイドでは、電話勧誘販売において契約を締結しない意思を示した消費者に対し、同じ電話で勧誘を継続したり、改めて電話をかけて勧誘したりすることについて再勧誘禁止の規定が説明されています。
ただし、店舗やクリニックにかかってくる営業電話だからといって、この規定をそのまま当てはめることはできません。特定商取引法第26条では、「営業のため、又は営業として締結するもの」について適用除外となる場合があります。
例えば、クリニックが業務用機器、広告、求人サービス、決済設備などを事業のために契約するケースでは、その契約の性質を確認する必要があります。「会社に電話した」「店舗宛てだった」という事実だけで一律に判断するのではなく、誰が何をどの目的で契約する話だったのかを見る必要があります。
反対に、個人事業主であればすべて適用除外になるという意味でもありません。消費者庁の適用除外Q&Aでは、利益活動を行う意思があることのみで直ちに「営業のため、又は営業として締結するもの」に当たるわけではなく、取引の種類、利益活動との関連性、取引への習熟性などを総合的に検討する考え方が示されています。
行政書士に文書作成を依頼できる範囲
営業電話が繰り返され、電話で断るだけでは対応しにくい場合、事実経過を整理した通知書を作成する方法があります。行政書士は、法令上認められる範囲で、相手方へ送る通知書や内容証明郵便の文案作成について相談を受けることができます。
相談時には、着信履歴、相手が名乗った名称、担当者名、営業内容、これまで断った日時、今後停止してほしい連絡方法、既存契約の有無などを整理しておくと、文書の目的が明確になります。
一方、相手との紛争について代理交渉を行うこと、損害賠償額について交渉すること、刑事事件の捜査を行うことなどは別の問題です。案件の状況によって弁護士や警察等への相談が適切な場合があります。
また、通知書を送れば営業電話が必ず止まると保証することもできません。文書化の主な意味は、こちらの意思と経緯を整理し、相手方へ明確な形で伝えることにあります。
店舗・クリニックへの営業電話でよくある質問
Q. 「院長に代わってください」と言われたら取り次ぐ必要がありますか?
新規営業である可能性がある場合、直ちに取り次ぐ必要はありません。会社名、担当者名、用件、既存取引の有無などを確認し、施設内のルールに従って判断します。
Q. 営業電話を一度断ったら、再度電話することはすべて違法ですか?
一律には判断できません。個人消費者への一定の電話勧誘販売では特定商取引法の再勧誘禁止が問題になりますが、店舗・事業者が営業目的で契約する取引では適用除外となる場合があります。契約主体と取引目的の確認が必要です。
Q. 着信拒否だけでもよいですか?
着信拒否も実務的な方法ですが、別番号から連絡されることがあります。同じ事業者から繰り返し連絡がある場合に備え、日時、番号、名乗り、営業内容、断った内容を簡潔に記録しておくと判断材料になります。
Q. 電話番号検索サイトに会社名が出ています。相手会社と断定できますか?
口コミや検索サイトだけで断定するのは避けます。通知書を送る場合などは、企業公式サイト等で正式商号と所在地を別に確認してください。
Q. 内容証明を送れば電話は必ず止まりますか?
必ず止まるとは限りません。内容証明郵便は差し出した文書の内容等を証明する制度であり、相手方が要求に従うことを保証する制度ではありません。
参考サイト
- 消費者庁 特定商取引法ガイド「電話勧誘販売」:電話勧誘販売の規制内容と適用除外の概要を確認できます。
- 消費者庁 特定商取引法ガイド「訪問販売等の適用除外に関するQ&A」:「営業のため、又は営業として締結するもの」の考え方を確認できます。
- 消費者庁 特定商取引法ガイド「特定商取引法の条文」:特定商取引法の条文や関連する運用指針を確認できます。