
給与の支払日を過ぎても振り込まれない、一部しか支払われない、退職を理由に最後の給与を止められた。こうした賃金不払いの疑いは、勤務先の事業場を管轄する労働基準監督署へ相談できます。準備では、給与明細の総支給額と口座への入金額を単純に引き算せず、支払対象期間、支払日、控除、既払金を分けることが重要です。この記事では、月ごとの未払い状況のまとめ方、会社の説明の残し方、相談時の記載例を紹介します。行政による是正の手続と、自分の給与を回収する手続の違いも確認しましょう。
目次
給与未払いの相談先と対象を確認する

支払日を過ぎた給与は監督担当へ相談
労働基準法第24条は、賃金を直接労働者に全額支払うことや、原則として毎月一回以上、一定の期日に支払うことなどを定めています。法律上認められる支払方法や控除などの例外はありますが、会社の都合で自由に支払日を変更したり、支払いを止めたりできるという意味ではありません。
支払日を過ぎても給与が支払われない場合は、勤務する事業場を管轄する労基署の監督担当へ相談します。「数か月待たないと相談できない」と考える必要はありません。まず、約束された支払日と、確認した時点での支払状況を伝えます。口座の確認だけでなく、会社から振込の遅れや別の支払方法について連絡がないかも整理してください。
担当先は厚生労働省の労働局・労働基準監督署の所在地一覧から確認できます。会社名に加え、勤務していた支店・店舗の住所を用意しましょう。給与計算を本社で行っていても、相談先を本社所在地だけで決めず、対象事業場と管理体制を説明して案内を受けます。
雇用の賃金と業務委託の報酬を混同しない
労基署への賃金不払いの相談は、労働者に対する賃金が中心です。パートやアルバイトでも労働者であれば対象になり得ます。反対に、独立した事業者として請け負った仕事の報酬は、通常の給与と同じ手続になるとは限りません。
ただし、契約書に「業務委託」と書かれているだけで労働者ではないと決まるわけでもありません。仕事の指示、勤務時間・場所の拘束、依頼を断れるかなど実態が問題となります。区別が難しい場合は、契約書の名称と働き方の双方を説明し、適切な窓口を確認してください。
監督指導と給与の回収を分ける
労基署は、法令違反について事実を確認し、認められた違反の是正を指導する機関です。労働者の代理人として和解交渉をしたり、会社の預金を差し押さえたりする機関ではありません。会社が支払いに応じない、請求額や雇用関係そのものを争う場合は、弁護士等への相談や裁判手続の検討が必要になることがあります。
行政への申告と回収の相談は、どちらか一方しか選べないものではありません。すでに労基署に相談しているなら、その内容や会社の回答も専門家へ伝え、手続と期限を整理します。労基署へ通報すれば全額が戻るという保証はありません。
契約・明細・入金記録をそろえる
支払いの約束と実際の履行を対にする
未払いの説明には、「いくら支払う約束だったか」「いつまでに支払うはずだったか」「実際はいくら受け取ったか」を確認できる資料が役立ちます。最初から大量の資料を一つにまとめず、契約条件、勤務実績、給与計算、実際の受領という順序で分けましょう。
| 資料 | 確認できる主な事項 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 労働条件通知書・契約書 | 賃金額、締め日、支払日 | 変更後の条件も確認 |
| 給与明細 | 支給項目、控除、差引支給額 | 発行だけでは受領の証明にならない |
| 口座の取引記録 | 入金日、金額、振込名義 | 対象月・他の送金と照合 |
| 現金受領の記録 | 受取日、金額、渡した人 | 受領書の記載と実際を確認 |
| 勤怠・シフト表 | 勤務日、勤務時間 | 予定と実績を区別 |
| 会社との連絡 | 不払いの理由、支払予定 | 発言者と日時を保存 |
明細がないときも分かる資料からまとめる
給与明細を受け取っていない場合は、雇用時の説明、賃金額を伝えるメール、過去の支払実績、勤務記録などを持参します。求人票だけで最終的な契約条件が確定するとは限りませんが、説明の経緯を示す資料にはなります。何が交付され、何が手元にないかもメモにしてください。
口頭で賃金条件を変更された場合は、変更を告げられた日、相手、内容、同意したかどうか、変更後の明細を分けます。「減額された」と一括りにせず、元の条件と会社が主張する条件を並べると、単なる計算間違いなのか、条件変更自体の争いなのかを整理しやすくなります。
資料の原本と提出用の写しを分ける
銀行の履歴は残高だけでなく、支払日前後の入出金が分かる範囲を保存します。会社の振込名義が店舗名と異なる場合は、過去の給与入金との関係も確認します。現金と振込が混在する月は、両方を記録し、二重に未払いとして数えないようにしてください。
無関係な取引や第三者の個人情報を提出する必要があるかは、窓口に確認します。提出用の写しを加工する場合でも、元の資料は改変せずに保管します。会社のデータを取得するために権限外のアクセスをしたり、同僚の口座情報を無断で持ち出したりすることは避けてください。
未払いと不明点を月ごとに分ける
総支給額と振込額をそのまま比べない
給与明細には、基本給や手当を合わせた総支給額、税金・社会保険料などの控除、差引支給額が記載されます。総支給額と入金額の差が、そのまま未払給与になるわけではありません。まず、明細の差引支給額と実際に受領した額を照合し、そのうえで控除や支給計算自体に疑問がないか確認します。
例えば、説明用の仮定として、明細の総支給額が25万円、控除が4万円、差引支給額が21万円で、入金が15万円だったとします。明細どおりなら未受領の差は6万円です。ただし、この比較だけでは、控除4万円の適否や総支給額の計算まで正しいとは判断できません。差額と計算上の疑問を別に書くことが大切です。
一部入金と後日の支払いを追記する
分割や遅れての入金があった場合は、当初の未払いを消してしまわず、追加の支払日と金額を追記します。どの月の給与として受け取ったのか不明なら、会社に確認した経緯も残してください。対象月が分からない入金を勝手に振り分けると、請求内容と会社側の記録が食い違う原因になります。
会社から支払予定を示されても、実際に受け取るまでは予定と受領済みを分けます。合意書や「これで精算済み」とする書面への署名を求められた場合は、未払いの放棄や清算条項が含まれないか確認し、内容に疑問があれば署名前に弁護士等へ相談しましょう。
控除や給与停止の理由を具体的に残す
「損害を出した」「制服を返していない」「急に辞めた」と説明されても、それだけで給与を自由に差し引けるとは限りません。会社が請求する損害や返還物の問題と、働いた分の賃金の支払いを分け、控除の金額、根拠とされた規程、同意を求められた経緯を整理します。
法令に基づく控除や労使協定などの確認が必要なため、控除があるだけで違法と断定しないことも重要です。給与明細、会社の説明、自分の認識を並べて、「何の根拠で引かれているか分からない」と具体的に相談してください。
労基署への相談準備と記載例
勤務先・支払日・未払いの範囲を先に伝える
窓口では、会社名と事業場の住所、雇用形態、入退社日、賃金の締め日と支払日、対象月、支払状況を説明します。会社と連絡できるか、すでに支払予定が示されているかも伝えましょう。自分の未払いについて行政の対応を求めるなら、「申告を希望している」と目的を明確にします。
山梨労働局の案内でも、こうした雇用・賃金条件、勤務状況などを事前にメモしておく方法が示されています。地域を問わず準備の参考になりますが、来署や郵送の方法、必要な資料は、実際に相談する署へ確認してください。会社への事前請求を済ませていなくても、まず労基署へ相談できます。
会社への通知と行政への申告は別
会社に支払いを求める文書と、行政に違反の疑いを伝える書類は、宛先も目的も異なります。会社へ請求書を送ったことだけで行政への申告が済むわけではなく、行政に情報を送っただけで会社に民事上の請求が到達するわけでもありません。どちらの手続を行ったかを分けて記録してください。
厚生労働省の労働基準関係情報メール窓口は、調査の参考となる情報の受付です。個別の相談回答や処理経過の回答は行わないため、自分の給与について具体的な対応を求める場合は、監督署へ直接相談します。
会社へ支払確認を行う場合は、対象月と金額、確認したい事項を具体的に伝えます。「払わなければネットに公開する」といった威圧や、関係のない取引先への拡散は避けてください。すでに対立が強い場合は、無理に直接連絡せず弁護士等へ相談します。
退職・倒産・時効に注意する
退職したことだけで給与請求はなくならない
退職後も、働いた分の未払給与について相談できます。労働基準法第23条には、退職した労働者などから請求があった場合、原則として七日以内に賃金の支払いや金品の返還を行う規定があります。争いがある場合でも、異議のない部分は期間内に支払う扱いです。
ただし、退職したら請求の有無を問わずすべてが七日後に支払われる、と理解するのは正確ではありません。退職金については支払時期の定めなど別途確認すべき点もあります。請求した日、内容、相手に伝わったことを示す記録を用意し、具体的な支払時期を窓口で確認してください。
会社が閉鎖している場合は倒産の状況も伝える
会社と連絡が取れない場合は、最後に連絡できた日、店舗や事業所の状態、届いた通知、分かる範囲の手続状況を整理します。噂だけで「倒産した」と決めつけず、破産手続などの通知があるか、事業が停止しているのかを分けて説明しましょう。
一定の要件を満たす倒産によって賃金未払いのまま退職した場合には、未払賃金立替払制度の対象となることがあります。対象賃金や期間、請求期限などの条件があり、給与が遅れただけで全員が利用できる制度ではありません。定期給与と退職金が対象となり得ますが、賞与は対象外で、支払額にも上限があります。労基署等へ早めに確認してください。
時効は給与の支払期日ごとに確認する
2026年11月3日時点では、2020年4月1日以後に支払期日が到来する賃金請求権は、法改正で5年とされたうえで、当分の間3年の消滅時効が適用されます。退職金請求権は5年です。毎月の給与はそれぞれの支払期日を基に確認し、退職日から一律に数えないようにします。
行政書士への依頼可否と専門家の選び方
労働関係書類には他士業の業務制限がある
給与未払いの書類だからといって、行政書士がすべて作成できるわけではありません。労働関係法令に基づく行政提出書類の作成や提出手続は、社会保険労務士法第2条・第27条の確認が必要です。労基署への申告書について、行政書士資格だけを根拠に有償の作成・提出代行を一律に受任することはできません。
当サービスへの相談では、提出先、目的、内容、会社との争いの状況を確認し、行政書士の業務範囲で対応できるかを判断します。他士業の業務に当たる場合は受任せず、社会保険労務士や弁護士等への相談をご案内します。事実整理という名前でも、実質的に他法令で制限される業務を扱えるわけではありません。
請求・交渉・訴訟の希望を最初に伝える
会社に請求額を争われている、損害賠償と相殺すると言われた、分割合意の条件を詰めたいという場合は、弁護士等へ相談します。行政書士は紛争の代理交渉を行う立場ではありません。文書の作成だけを希望する場合でも、背景にある紛争を含めて受任の可否を確認します。
当サービスの基本は、法令上認められる範囲での文書作成です。提出・送付代行、行政書士名の表記、費用は個別に確認し、見積りによりご案内します。文書が作成されれば調査や給与の支払いが実現するという保証はありません。本人が直接労基署へ相談するために、有料サービスの利用が必要なわけではありません。
よくある質問
Q. 一か月分だけの未払いでも相談できますか?
相談できます。何か月分たまるまで待つという条件はありません。支払日、支払対象期間、未受領額、会社の説明を整理してください。
Q. 給与明細が出ていれば、支払い済みになりますか?
明細の発行だけで実際に受領したことにはなりません。口座への入金や現金受領と照合します。反対に、明細がなくても受け取った金額は正確に記載します。
Q. 会社から来月払うと言われたら待つしかありませんか?
支払予定の説明があっても相談できます。約束の日時、対象月、金額を保存し、実際の支払いと分けます。時効や倒産の可能性がある場合は、待ち続けず専門家にも確認してください。
Q. 匿名で自分の給与を取り戻せますか?
匿名の情報提供と、本人の給与について是正や回収を求める手続は異なります。対象者や金額の確認が必要になり、内容から身元が推測される場合もあります。氏名の扱いは事前に窓口へ相談します。
Q. 一部の給与を受け取ったら、相談内容を変更しますか?
追加の支払日・金額・対象月を記録して、担当窓口に伝えます。当初の説明を消すのではなく、その後の変化として追加し、残っている未払いを整理します。
参考サイト
2026年11月3日時点で確認した一次情報です。給与の性質、請求の期限、必要な手続は個別の事情に応じて確認してください。
- 厚生労働省「労働基準法」:第23条の退職時の金品返還、第24条の賃金支払い、第115条・第143条の時効。
- 山梨労働局「会社に給料を払ってもらえなかったので、労働基準監督署に申告したい」:申告時に確認する事項と管轄の考え方。
- 厚生労働省「賃金請求権の消滅時効に関するQ&A」:支払期日、経過措置、退職金との違い。
- 厚生労働省「未払賃金の立替払制度に関するQ&A」:倒産時の利用要件、対象賃金、請求期限など。